菌の物語
今回は民族の興亡を菌食の観点からお話ししたいと思います。執行草舟は、『生命の理念Ⅱ』32項の中で、「菌食を多く摂っている民族は発展して戦いにおいても勝利を収め、逆に菌食量が少なかった民族は衰退している。」と記しています。
例えば、ローマ文化は、森林の豊富なきのこ類と、当時は肥沃だった北アフリカの穀物によって支えられていましたが、この穀物をローマに運び込むのに長い時間がかかり、運搬の途中でこの穀物が発酵しました。その膨大な菌食に支えられてローマ帝国は繁栄しましたが、シーザーが出現したころから菌食が軽んじられるようになり、美食に溺れ、ついには衰退していきました。ローマ帝国の食文化を見ると、食が国家の興亡に及ぼす力がよくわかります。
また、大英帝国が海外へ向かって制覇を始めたのは1600年代からですが、ちょうどイギリス人が紅茶を飲む習慣ができたのもその頃です。お茶好きで有名な英国に紅茶が入ってきたのは西暦1600年頃からで、1630年にはすっかり定着しました。中国から船で運ばれてくる緑茶が、途中で発酵して紅茶になったのは有名な話です。
さらに、モンゴル人の主食は馬乳酒と干し肉。どちらも強力な菌食です。ジンギスカンの世界制覇も、実は菌食が支えていたことになります。しかし、孫のフビライハンの時代になってから中華料理が主となり、菌食量が減った結果、モンゴル帝国は勢力を失ったのです。
日本でもわかりやすい例が、源平合戦です。ここでも、菌食が勝利を収めています。平家が白米と鮮魚中心の食事をしていたのに対し、源氏は芋蔓の発酵食品と味噌を主とした粗食だったのにもかかわらず、平家を下したのです。
このように、民族の隆盛の裏には、必ずそれを支える菌食の力がありました。では、なぜ民族の興亡と菌食量が関係しているのでしょう。執行草舟は、「貧しかったから」だと言います。ローマ帝国や大英帝国に限らず、文明と呼ばれるものはすべて貧しい状態から始まるのです。そして、貧しい時には強靭な意志力と体力が必要になります。人間がその体力の根源まで出し尽くして戦わなければならない、勃興期の貧しい時代には、人は必然的に菌食を求めるようになるのです。菌食は相手が生き物なので、手間と真心さえかければ、自然に増えてエネルギーの高い食事になります。ローマ帝国も大英帝国もモンゴル帝国も、勃興期はとても貧しく、必然的に菌食が中心となっていたのです。