菌の物語

第10巻
第4話腸内細菌と心 -自閉症と腸内細菌の関係-

自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorders(ASD))とは、子供の社会的な発達や、伝達能力の発達、想像力の発達などの一連の発達障害を指します。

言語の理解と使用の遅延、音などの感覚的刺激に対する異常ともいえる反応、行動の制限と反復、社会的触れ合いにおける困難性などは、本症の核となる症状です。自閉症の子供の特徴としてはこの症状に加え、種々の頻度で下痢、便秘、鼓腸、腹部不快感などの消化器症状を呈します。特に自閉症の程度が重い人ほど、腹部症状も重い傾向があることが指摘されています。

自閉症は、今まで遺伝子異常や免疫学的異常など、さまざまな原因が考えられてきましたが、自閉症と腸内細菌との関連を調べる研究も古くから行われています。例えば自閉症の子どもとそうではない子どもの腸内細菌を調査した結果、自閉症の子どもは「クロストリジウム」や「ルミノコッカス」という腸内細菌がそうではない子どもに比べて多く、悪玉菌の菌種も多いという報告があります。

現在医学が進歩し、健康な人からの腸内細菌フローラをまるごと移植する「便微生物移植」が出来るようになりました。自閉症の子どもに腸内細菌移植を行うことにより、自閉症症状を緩和させようというのです。実際に、自閉症の子供の消化器症状の8割が消失し、自閉症の異常行動が改善した報告もあります。しかし、他人の腸内細菌を移植しても、自身で食生活や生活習慣を変えない限り、良い腸内環境を保つことはできません。「便微生物移植」の際も、食生活改善についてのヒアリングは必須とされています。良質な発酵食品や食物繊維を取ることは、健康な体と心を維持する上でとても重要なことなのです。

自閉症は、効果的な治療法が非常に限られています。そうした中、腸内環境を改善する治療に期待が寄せられています。