菌の物語

第8巻
第7話微生物ダークマター -何者か判別すらできないものたち-

2019年6月、国連の経済社会局は、現在77億人の世界人口が、2050年には97億人に達するとの見通しを明らかにしました。サハラ以南アフリカの人口は現在の2倍に増えると予想されています。しかし、20億、30億人口が増えたところで、微生物の数に比べたらモノの数ではありません。宇宙にはおよそ、10の24乗もの星があるといわれています。しかし、それよりもはるかに多い10の30乗個という微生物が、この地球上に存在しています。どちらも多すぎてわかりにくいように感じますが、宇宙の星の数よりも、地球上の細菌の数のほうが100万倍多い計算になります。まさに天文学的な数字です。

微生物は、地球上のどこにでも棲息しています。もはやいないところを探すことの方が難しいでしょう。一滴の海水の中には、およそ1万もの微生物が棲息しています。肥沃な土壌も微生物の宝庫です。ティースプーン一杯の土の中に、数十億もの微生物が存在しています。仮に私たちが80歳まで生きたとして、生まれてから死ぬまで寝ずに1秒に1匹ずつ微生物を数え続けても、数えられる微生物の数は約25億匹。これではコップ1杯の海水、ティースプーン1杯の土中内の微生物を数え切ることもできないのです。

これだけ沢山棲息している微生物ですが、従来の微生物培養法では、自然界にいる微生物1%程度しか培養できないため、存在する99%の微生物が、何者か判別すらできない・・・・・・・・・・・というのが現状です。近年、次世代科学技術が確立しましたが、その結果見えてきたのは「分からないものだらけ」という現実でした。これらの微生物は宇宙に遍満する謎の暗黒物質、“ダークマター”に因んで、「微生物ダークマター」(Microbial dark matter)と呼ばれています。

現在人類は、このダークな部分にまで手を伸ばし、何とか解明しようとしていますが、もともとホモサピエンスが誕生する遥か前の36億年も前から、微生物はこの地球に棲みついていました。微生物は独自の生態系を成し、この地球上で最も繁殖している生物です。その謎は、宇宙の根源と同じように、まだまだ多くの謎に包まれているのです。