菌の物語

第7巻
第7話微生物と交感する心

古来より、人類は微生物の力を借りて「発酵」という一大文化を築いてきました。食物を発酵させることにより、栄養価がアップし、消化を良くしたり、腸内細菌の働きを助けるだけでなく、日持ちさせ、味わいや風味も抜群に良くなります。日本でも昔から、味噌、醤油、みりん、酒などの発酵食品が生活に根付いていました。最近では、発酵食品の効果が見直され、“菌活ブーム”再来中です。確かに、発酵食品を摂ることは、私たちの体にとって有益です。しかし近年、薬品などを添加して強制的に発酵させた安価なものが多く出回っている傾向があります。もちろん人工的に工業化した“紛いもの”ですから、菌食効果も微々たるものでしょう。真に質の良い発酵食品を食べなければ、ほとんど意味がないのです。

本来、味噌や醤油などの発酵食品を製造するには、原料処理、種付け、仕込み、圧搾など、様々な過程が必要です。これでは時間も手間もかかり、効率重視の現代には合いません。

そこで、強制的に熟成を進める製法や、加熱殺菌処理されたもの、アルコールで発酵抑制する方法が開発されたのです。当然、加熱されていれば、味噌に含まれている酵素や栄養素、麹菌も死滅してしまいます。本来なら微生物の力でじっくり発酵する過程も踏まえ、製造には1年かかる味噌も、工業化すれば最短10日で出来てしまうのです。また、麹菌の代替や増強のため、「酵素剤」を添加して製造している商品もあります。人工的に酵母を作りだすことによって、強制的に発酵させることができるようになったのです。

味噌だけではありません。納豆も、現代の納豆はほとんど純粋培養された納豆菌によって作られています。納豆メーカーの使用している納豆菌は最先端の遺伝子操作技術により、臭いや粘りの強さまでも我々の好みに合うものが出来るようになりましたが、本来の自然な姿からはかけ離れてしまっているのが現状です。このように、発酵食品を安定して大量生産し、広く提供できるようになったことにより、私たちはその恩恵を受けていることは確かです。しかし、現代の効率化と安定化を重視した製造方法では、当然、本来の菌食の効果は無くなってしまいます。

そもそも、真の発酵は、自然界の営みによって成されるもので、工業的に人間の自己都合では作れないものなのです。人間はこの微生物が最高の仕事をしてくれるよう「場」を整えていくことが何よりも重要です。その為には、「微生物と交感する心がなくてはならない。」と、執行草舟は言います。微生物と心を通わせることで真の良質な発酵食品が生まれるのです。