菌の物語
カスピ海と黒海に挟まれたコーカサス地方は、パキスタンのフンザ、南米エクアドルのビルカバンバと並んで世界の三大長寿国として有名です。コーカサス地方に限らず、長寿国の食生活は、発酵食品の摂取率が非常に高いことで知られています。海抜1300メートル以上に位置するコーカサス山脈の村々には、50万人以上の人が住んでいます。「コーカサス」という名前が広く知られるようになったのは1983年からWHO(世界保健機関)が実施した人口調査がきっかけでした。100歳以上の高齢者の人口比率が世界で最も高いことがわかり、コーカサス地方の伝統的な暮らしに注目が集まるようになったのです。
コーカサス地方の人々は、伝統的に「ケフィア」と呼ばれる、乳を発酵させた長寿食を食べてきました。ケフィアは、ヨーグルトとは違い、30種近くの多種類の乳酸菌と酵母を含んでおり、その有用性は様々な論文からも証明されています。ケフィアは、「ケフィア粒」と呼ぶ種菌を牛やヤギ、羊の乳に植えることで作られます。古くは、ヤギ皮の袋にミルクとケフィア粒を入れ、戸口の近くにぶら下げて作られていました。人々が戸口を通る際に袋と触れたり当たったりするために、中のミルクとケフィア粒がよく混ざり、一晩で発酵していくのです。
種菌であるケフィア粒のことを、コーカサス地方の人々は、「預言者の黍(きび)」と呼んでいます。一説によると、1400年前マホメットが、病人を見つけては「神様からの贈り物であるこの霊薬から、ケフィアをつくって飲みなさい」と説いたと伝えられています。
また、共生細菌を多く含んだ発酵飲料として位置付けられ、日本では昭和40年代から50年代初頭にかけて大ブームとなった「紅茶キノコ」は、免疫力向上、腸内環境改善、殺菌作用、ダイエット、美肌効果などにより、近年再注目されていますが、これも、もともとコーカサス地方の人々が日常的に飲んでいるものでした。
執行草舟は、『生命の理念Ⅱ』(講談社エディトリアル刊)の中で、「いくら長寿食を食べても、決められた寿命を延ばすことは出来ないが、長寿食のような真の発酵食品を多く摂ることで、生命エネルギーの回転が高まり、健康のまま寿命を全う出来る。」と記しています。