菌の物語
「うま味」と「おいしさ」、両者はしばしば混同して使われますが、実は大きく異なっています。「うま味」は甘味・酸味・塩味・苦味とともに基本味と呼ばれる味の1つです。基本味とは、他の味を混ぜ合わせても作ることのできない独立した味のことを指し、おいしさを構成するとても重要な要素です。一方「おいしさ」は、味や香り、料理の見た目、食感、食事中の雰囲気など、様々な要因に影響されて感じるものです。
日本では古くから、「だし」の概念があったため、料理に昆布だしが多く使われてきました。経験的に昆布の中にある、「うま味」の存在を感じていたのです。その「うま味」の正体を明らかにしたのが、東京帝国大学・池田菊苗博士です。博士は昆布に含まれる成分においしさの元があることに着目し、1908年、昆布だしの味の正体であるグルタミン酸を取り出すことに成功しました。そして、その味を「うま味」と名づけました。
一般的に、植物にはアミノ酸系の「グルタミン酸」が、また、動物には核酸の「イノシン酸」という、うま味成分が多く含まれています。納豆は発酵の過程でグルタミン酸が増加し、うま味が増しています。発酵により、たんぱく質が分解され、アミノ酸が増えて美味しくなるのです。さらに、もとの素材より保存性がよくなり、栄養価も上がります。文部科学省が発表している「日本食品標準成分表」を見ると、ゆでた大豆と納豆の栄養成分を比べた場合、納豆のほうがビタミンB2は7倍、葉酸は3倍、ビタミンKはなんと85倍も多く含まれていることがわかります。微生物の力で、食材本来の味に独特のうま味が加わるだけでなく、体にとっても有益な成分が加わるのです。