菌の物語
真っ赤な傘に白い斑点模様のコントラストが美しいベニテングダケ。絵本などにもよく描かれ、日本では長野県などでよく見られるキノコの一種です。ベニテングタケは、その特異な風貌と毒性から、さまざまな民俗学的話題を生んできました。東シベリアのカムチャッカでは酩酊薬として使用されてきた歴史があり、西シベリアでは摂食した際の中毒症状(幻覚作用)を利用して、シャーマンが変性意識状態になるための手段として使われてきました。一説によると、サンタクロースはこのキノコを食べて高揚したシャーマンが始まりとも言われています。また、趣味で菌類の研究をしていたアメリカの銀行家、ゴードン・ワッソンは古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』に登場する聖なる飲料「ソーマ」の正体が、ベニテングタケではないかという説を発表しています。更には、あの有名なゲームの主人公、マリオがスーパーマリオになる時に食べるキノコのモチーフも、このベニテングダケだといわれています。このようにベニテングタケは各地の文化や宗教において重要な役割を果たしてきました。
中世の西ヨーロッパに大きな影響を及ぼしたバイキングは、戦いの前にベニテングダケを食べて勇猛心をかきたて、士気を高めたと言います。ベニテングダケには幻覚作用だけでなく、興奮作用があるため、恐怖心を打ち消すのにも良い効果をもたらしたのでしょう。極寒の地で過酷な生活を強いられていたバイキングは、強い者が権力を握る、究極の実力主義の中で生きていました。臆病なふるまいをすれば悪評が付いて回り、恥と破滅を家族や子孫にもたらしました。同じ船の乗組員はとても親密な関係の中で一体感を持って勇敢に戦い、士気はとても高かったといいます。彼らは、自分の身が危うくなっても同胞が助けてくれると信じて疑いませんでした。どの戦士たちも、強い絆のもと、戦いに臨んでいったのです。そして、戦死者は神の殿堂である「バルハラ」に入ることを約束され、そこでは仲間たちと宴を開きながら、終末の日に備えて永遠に戦い続ける場所と伝えられてきました。戦士たちは、死後の名誉をなによりも重んじていたのです。 勇猛さと野蛮性を備え、高い航海技術や造船技術、更に斬新な戦闘技術を持ち合わせたバイキングは、各地への移住、植民、略奪行為へと乗り出すようになり、絶対的な強さを示すようになります。
(※ベニテングダケは毒キノコに分類され、食用には適しません。)