菌の物語
”菌”はカビや乳酸菌など菌類を表す漢字でもありますが”菌”一文字で「くさびら」と読み、キノコを表す漢字でもあります。滋賀県栗東市の閑静な住宅街にひっそりと佇む菌神社。執行草舟も参拝したことのある、弊社の事業ともご縁の深い、日本で唯一のキノコを祀った神社です。
社伝によると、景行天皇の頃、村に大飢饉があった時に竹田折命(たけだおりのみこと)が田植えをしようとしたところ、一夜にして菌(キノコ/クサビラ)が一面に生え、村を救いました。それが上聞に達し、菌田連(くさびらたのむらじ)の姓を賜ったと伝えられています。その後、舒明天皇九年(637年)に勧請されています。現在、市指定文化財となっている菌神社。本殿には13世紀後半と推定される瓦が使用されていることも判明しています。建立年代が明らかで、さらに中世の様相を伝えられていることから、非常に貴重な文化財とされています。
日本人がキノコを食べることを習憤にしたのは 縄文時代から。縄文時代中期から後期にかけての遺跡から、 キノコの形をした「キノコ形土製品」が多数発見されており、今から4000年 以上前から日本人がキノコを食べてきたと考えられています。日本人とキノコとのかかわりを示すものは古典にもあります。奈良時代の万葉集には、キノコを詠んだ歌が収録されていますし、平安時代末期の「今昔物語集」にもキノコを題材にした話がいくつか登場します。
また狂言に「菌」という演目があります。ある男が採っても採っても屋敷内にキノコが生えてくるので、山伏にキノコ退治の祈祷を頼んだところ、山伏は印を結んで祈祷を唱えるのですが、祈祷はまったく効かず、祈れば祈るほどキノコは増え続け、 山伏は恐れをなして逃げてしまう。というお話。"祈祷も効かない"という、キノコの凄まじいエネルギーを感じる演目です。
ヨーロッパでは、古代ギリシャや古代ローマ時代から「神様の贈り物」と呼ばれ、 珍重されてきたキノコ。食べ物としてはもちろん、幻覚作用のあるキノコは宗教関連にも用いられ、人々に大きな影響を与えてきました。
また、 南米では、紀元前5世紀〜紀元16世紀に栄えたマヤ文明の遺物 として、石でできたキノコ形の彫刻「キノコ石」が多数発掘されています。25~50cm程度の大きさで、マヤ人にとって守護神的な力を持つと信じられていました。マヤ人のシャーマン(神と交信する役割の特別な能力を持つ人物)が、ベニテングタケやシビレタケ属のキノコを食ベ神がかり、お告げを伝えたことから、キノコを神聖なものとして崇めるために作られたのではないかと伝えられています。 人類が多種多様に食してきたキノコを祀る「菌神社」。先人がキノコに絶大なる力を感じていたことが伺えます。