菌の物語

第3巻
第6話殺菌との戦い

過去数千年にわたり、人類が受け継いできた発酵技術。奇妙なことに、発酵に微生物が関与していることが周知されるようになってから、人類は「殺菌」という武器を使い、微生物を排除するようになりました。 食品に対しても、コストや手間を省くため、衛生主義と殺菌が取り入れられ、発酵食はどんどん衰退し、食品も規格化、画一化されたものが多くなりました。しかし、食中毒はなくならず、がんや糖尿病、肥満などの慢性病も増え続けています。

諸説ありますが、人間の体では365日、約3000億個の細胞が日々死に続け、一方では死にゆく細胞とほぼ同数の細胞が誕生して、生体の恒常性が保たれています。実はそのうちの約5000個はがん細胞。発生したがん細胞を、NK細胞をはじめとする免疫システムが日々休みなくやっつけてくれているのです。

もともと、人類は菌と共存している生き物。何万年もかけて自然の異物とつき合い、それによって私たちは免疫力をつけ、健康な体を手に入れてきました。良い菌、悪い菌の区別なくすべて排除する現代の潔癖志向は、健康のためと言いながら、逆に病気を増やしています。風邪やインフルエンザなどの病原菌が体内に侵入した際、それに対抗できるのも免疫のおかげです。その免疫細胞の70%は、腸内で作られているのです。 腸内環境を整え、菌と共生してこそ、私たちの体は真の健康を保つことができるのです。