菌の物語

第2巻
第1話釈迦の悟りと菌食

日本人に馴染みが深い仏教ですが、仏教の誕生に実は菌食が大きく関わっていたことを、皆さんはご存じでしょうか。仏教を開いたお釈迦様が悟りを開くために修行をしていた頃の話です。お釈迦様は、6年間に亘り生死の境を行き来するほどの厳しい苦行をしましたが、悟りを得られずにいました。その修業は毎日呼吸をしばらく止め、太陽の直射日光を浴び、わずかな水、豆類で毎日を過ごすものだったと言われています。

修行を中断し、激しい修行に疲弊しきって骨と皮のような身体を川で清め、樹下に坐して休んでいたところ、付近の村に住むスジャータという娘が現われました。スジャータは樹下に坐していた釈迦の姿を見て樹神と思い、乳粥(発酵食品の一種で、ヨーグルトのようなもの)を供えました。これを食し、心身ともに回復した釈迦は近隣の森の大きな菩提樹の下で瞑想し、遂に悟りを得ることができたのです。釈迦が悟りを得るきっかけには、菌食が大きく関わっていたのです。

また、同じ仏教の話では日本の禅僧の一人に白隠という人物がいます。この白隠というお坊さんは、臨済宗の中興の祖として知られる名僧です。この白隠禅師が提唱した健康法に、「軟酥(なんそ)の法」というものがあります。これは、白隠が禅の修行をし過ぎてノイローゼになり、神経を病んでしまったときに、飯山の正受老人から伝授されたものです。それは自分の頭の上に鴨の卵ほどの軟酥(牛や羊の乳を発酵させたバターのようなもの)が溶けだして、自分の五体の隅々まで潤し流れていくイメージをするという観相法で、ここに出てくる軟酥も実は発酵食品なのです。バターがトロトロと溶け出し、頭から流れていく気持ち良さは確かに、安らかな精神で瞑想状態になれたことでしょう。

釈迦や白隠の悟りからも、人間の叡智を得るためには、発酵食品は欠かせないものだったことがよくわかります。