菌の物語

第1巻
第8話「偉人達の食卓1――サルバドール・ダリ編」

執行草舟コレクションでもその作品を所蔵している、サルバドール・ダリ。シュールレアリストとして有名なスペインの画家です。ダリは「6歳の頃、将来は料理人になりたいと思っていた」と告白しており、69歳の時には『ガラの晩餐(Les Diners de Gala)』というレシピブックも出版し、美食家として有名でした。("ガラ"とはダリのミューズであり最愛の妻の名前)さらにダリは大のワイン好きで、『ガラのワイン』という伝説的な本も出版するほどワインを愛していました。

『ガラのワイン』は『ガラの晩餐』の姉妹版。2017年にドイツの出版社がこの美しくも変わったワインマニュアルを復刊したことにより、近年再び注目されました。執筆は仲間に任せ、ダリはイラストだけを描きました。この本のために描いたワインに纏わる挿画はなんと140以上。ダリは本の中でその独特な感性を発揮させ、現実世界から超越した原風景と偏執的な手法により、読者を一瞬にして、ワインの世界へと引き込んでいきます。

ワインの歴史は古く、一説には紀元前8000年頃といわれています。この頃には、コーカサス山脈あたりでワインがすでに飲まれていたと考えられています。メソポタミア、エジプトで造り始められたワインは、紀元前1500頃にギリシャに伝わり、紀元前600年頃、南フランス・マルセイユ地方に移り住んできたギリシャ人の一部が、フランスでワイン造りを始めたとされています。そして、この地に伝わったワインづくりは、そのころ勢力を強めていたローマ人の手によってヨーロッパ全土に広げられていくのです。

ダリの生地であるスペインのカタルーニャ地方では、ワイン生産の長い伝統を持ち、スパークリングワインのカヴァを生み出しました。ダリはペレラーダ社のロサード・カヴァのファンで自宅に招いた知人達によく振舞っていたといいます。

現在では世界中で広く親しまれているワイン。ワイン色の醸造酒には、発酵や熟成を経て、美容やアンチエイジングに役立つポリフェノールが豊富に溶け込む発酵飲料の代表です。ダリは、独自のアプローチ法で、熟成したワインだけがもつ気高さと繊細さその機微に触れたときだけに訪れる官能的なひとときを、イラストだけで示しました。そして“ワインは歴史のいたるところで、度々持ち出される重要なアイテム”だということを私たちに訴えています。


「偉大なるワインを造るには、次なる人達が必要である。狂人がぶどうを育て、賢者がそれを見張り、正気の詩人がワインを造り、愛好家がそれを飲む ――サルバドール・ダリ」