菌の物語
このコラムでは、菌食にまつわるちょっと神秘的な話をご紹介します。長野県内の北方にある飯縄山は、古くから修験道の霊山として栄えてきました。かつてこの山の頂には「飯砂」(別名:天狗の麦飯とも言われる)という食べられる砂があり、山にこもった行者はそれを食べながら修行をしていたという伝説が残っています。実は、飯縄山という山の名前もこの伝説から名づけられたと言われています。
飯砂は大きさ約1~2ミリのゼラチン状の粒で、土の上に木の葉や実が堆積し、長い年月をかけて土になりかかった層が変成作用によって温醸された土のことです。いわゆる天然発酵に近い形で、中には多数の菌類やバクテリアが含まれています。
この山には飯縄権現という神が祀られており、この神は天狗の化身としても知られています。飯縄権現が天狗として祀られるようになったのは、先ほどご紹介した飯砂を食べながら修行に励んだ行者が超人的な力を身に着け、それを人びとが天狗として崇敬したのではないかという説があるのです。
つまり、人知を超えた力を持つ天狗は、発酵食品を日常的に取り入れながら修行をした人ということになります。また余談ですが、飯縄権現の「縄」が縄文を示しており、菌食が縄文時代から人々が日常的に食していたもの(=縄文飯)である、という説を唱える人もいます。
菌食が超人的な力の元となり、古代から続く食事であることを考えると、発酵食品の重要性というものが自ずと伝わってきます。