菌の物語
40億年前、地球上生物が誕生したとき、生物は「脳」を持っていませんでした。最初に備わった器官は「腸」であり、今でもイソギンチャクやクラゲ等の腔腸動物には脳がありません。そこから進化したウニ、ヒトデ、なまこなどの棘皮動物にも、「脳」はありません。脳を持たずして、なぜ彼らは生きていられるのでしょう。それは「腸」が「脳」の役割を果たすニューロンを持っているからです。
「腸」は「腸管神経」という独自の神経系を持ち、脳の指令がなくても自活できる唯一の器官です。腸管神経はその自律的制御や中枢神経系に類似する機能に加え、構成するニューロン数は、人間の場合、1億にもなります。これは、脊髄に存在するニューロンの数に匹敵することから、腸は「第二の脳」とも称されています。
進化を重ね、人の脳は即座に正確な判断をするために、大脳新皮質だけでも140億個もの脳細胞が複雑かつ精巧な仕組みで形成されるまでに至りました。しかし、生物の発生から見ても分かるように、「腸」こそ神経系の基であり、そして脳内物質をも作りだす、ハイレベルな製造工場でもあるのです。
腸はとても賢くできています。例えば、私達の体内に有害なものが入ってきたとき、脳よりも先にその異変に気付くのが「腸」です。「脳」は食べ物に食中毒を引き起こす細菌が混入していたとしても、見た目や匂いに変化がない限り、安全かどうかの判断ができません。「美味しそう!食べよう!」とシグナルを出してしまうのです。しかし、「腸」は有害なものが入ってくると、腸の神経細胞が即座に判断を下し、嘔吐や下痢などの激しい拒絶反応を示し、身体が中毒にならないように守ってくれるのです。「脳」の判断を待たずに、「腸」が"出すこと"を判断するのです。
「腸」は単なる消化器官ではありません。そこには1000兆以上ともいわれる微生物が存在し、かつ、1億もの神経細胞があります。その機能は未知数で、神秘に包まれた、人体器官なのです。