菌の物語

第4巻
第8話生命の樹 ―― 岡本太郎

1970年に開催された大阪万博で、そのシンボルともなった「太陽の塔」。大阪の近代的な風景とはかけ離れた異様なほどの存在感は、国内外から訪れた6400万人もの人々を魅了しました。そして、過去、現在、未来を貫いて生成する万物のエネルギーの象徴を表し、まるで太古の昔からそこに立っていたような、不思議な感覚を見るものに与えます。執行草舟コレクションにも岡本太郎の「太陽の顔」という仮面が所蔵されており、その生命的な力強さは「太陽の塔」と通ずる素晴らしい作品です。また岡本太郎の生命論は、執行草舟の生命論と非常に似ており、「毒をもって生きること」なども、まさに共通して述べていることです。

さて、作者の岡本太郎(1911-1996)は、ピカソの影響を受け、古代の生命力を表現した抽象芸術が人気となりました。その情熱と哲学は、「太陽の塔」内部にも表わされています。「太陽の塔」内部には、「生命の樹」と題された高さ約41メートルにもなる巨大モニュメントがそびえ立っており、樹の幹や枝には33種、292体の生物がびっしりと実っています。根本には微生物などの原生生物がひしめき合い、そこから上に向かって順に、三葉虫→魚類→両生類→爬虫類→哺乳類に至るまでの生命の進化過程を表しています。

「“生命の樹”全体が一つの生命体であり、太陽の塔の血流なのだ」という言葉の通り、岡本太郎は樹一本で、噴き上げる生命の力強さを表現しました。注目すべき点は、各生物の大きさです。微生物や恐竜などのオブジェは、とても大きく、躍動感や原始のたくましさがあり、見るものを圧倒します。しかしそれとは対照的に、最上部にいるクロマニヨン人はとても小さく造られているのです。

岡本太郎は、「人間は“単細胞生物”に還元したいという、つまり命そのものに還元したいっていう気持ちがある。これを見ると、これが本当の僕の姿だと思う。だから僕は“単細胞生物”の世界を一番重点に置きたい」と語っています。生命を支えるエネルギーの象徴は微生物であり、そこから上へと向かって伸びてゆく生命の力強さを、岡本太郎は表現したかったのでしょう。根底を支えている微生物の存在があるからこそ、生命の連鎖が未来へと続いていくのです。

1970年の大阪万博閉会後、48年もの間その内部は閉ざされ、人目に触れることはありませんでしたが、2018年3月19日、改装された「生命の樹」が一般公開されました。長い沈黙を破り、再び人々の目に触れられることとなった「生命の樹」は、私たちに近代主義的な進歩思想とは対極にある世界を見せてくれています。

地球上の生物は皆、微生物によって生かされています。私たちの腸内にも、1000兆にも及ぶ腸内細菌がいますが、その腸内細菌がいなかったら一体どうなるでしょう。私たちは、食べたものを吸収することさえ出来ないのです。それは、イコール「死」を意味することでもあります。私たちが「必要」と思っても、腸内細菌が「不要」と思えばその栄養は吸収されません。何をどのように吸収・分解するのか。その秘密は、腸内細菌だけが知っているのです。