菌の物語

第4巻
第6話マイクロバイオーム ―― 動物園のサルと現代人と

私たちの腸内には、1000兆を超える腸内細菌が棲んでいると言われていますが、それらはまとめて「マイクロバイオーム」と呼ばれています。近年、世界中の先進国を中心に肥満、糖尿病、アレルギーが急増しており、これには我々のマイクロバイオームが大きく関わっていると言われています。アメリカのある研究室が先ほど挙げた病気と腸内細菌の関係を調べた結果分かった、大変興味深い事実を皆さまにご紹介します。

そもそもこの研究室は現代人から正常な腸内細菌が失われつつあることに気づき、調査を開始しました。この調査の対象となったのが、ジャングルから動物園に移されたサルのマイクロバイオームの変化です。調査の結果、ジャングルに住んでいるサルの腸内細菌は、多様な種類の細菌が棲んでいるのに対し、動物園に住んでいるサルの腸内細菌は、その多様性を失っていることがわかりました。それはまるで、一握りの外来生物に支配されているかのような状態だったのです。

そこで今度は、動物園のサルの腸内に生息する細菌の種類を分析したところ、現代人の腸内に生息する細菌の種類と一致することがわかりました。つまり、「現代人の腸内は、動物園のサルの腸内と似ている」ということです。

次に研究室は、実際にアメリカで増加している病気群と腸内細菌がどのような関わりがあるか、ということを調査しました。その結果、移民や難民のほとんどは、アメリカ到着時は何の疾患も患っていないのに、それから数年以内に他のアメリカ人と同様に、肥満と糖尿病のハイリスク群になることがわかりました。移民たちの腸内にいたマイクロバイオームは、たった数年の間に、次々とその数を減らしていったのです。驚くべきことに、肥満になった後の彼らの腸内細菌は、移民前の三分の一まで減っていたといいます。

腸内細菌に悪影響を及ぼした原因として、その食生活が大きく関係影響していることは間違いないでしょう。マイクロバイオームは自分の意志で変えることができます。自分の腸内環境を自分で整えるよう意識することが重要なのです。