菌の物語

第1巻
第7話運命の出会い――日本人と麴菌

日本最古の歴史資料である古事記に、「スサノオノミコトがヤマタノオロチを酒に酔わせて退治した」という記述があるように、日本では、神話の時代から酒造りが行われてきました。

日本酒のルーツは古く、遡ること旧石器時代。アワやヒエ、ドングリ等の原料を口で噛み砕き、容器に溜めておく"み酒"がその始まり。唾液に含まれる消化酵素が原料のデンプンを分解し、発酵していくのです。しかし、唾液を利用することに様々な難点を感じた古代人は、カビの生えた蒸し米が発酵し、酒ができることを発見しました。

それについて書かれているのが、713~715年(奈良時代)に編纂された『播磨国風土記』の一節。「大神の御粮れてかび生えき すなわち酒を醸さしめて 庭酒りて宴しき」(神様にお供えしたご飯にカビが生えてきたので、それでお酒を作って、神様に献上し宴を行なった)ということが書かれています。古代人たちは、この偶然起こった"発酵"が、神や超自然の恩寵と考えたに違いありません。この記述は、カビを利用した最古の醸造記録とも伝えられており、文献で見える「カビ」を使用した酒造りはここから始まりました。

この米を酒に変えた「カビ」こそが、日本特有の「麴菌」という発酵菌。この麴菌、カビの一種であり、厳しい環境でもよく発酵する元気者。最適の環境を得られれば物凄いスピードで繁殖していく生命力の固まりです。

そして、日本酒だけでなく、味噌、醤油、米酢、本みりんなど、和食文化に欠かせない食品作りに用いられます。私達は、その生命力を日々ありがたく頂いているのです。

――奇しくも弊社の本社が位置するのは「千代田区麴町」。

2017年1月、かつての麴町11丁目から13丁目一帯の発掘調査が終了し、1万6000㎡に及ぶこの大規模な調査で、地中深くから、酒や醤油、みりん、味噌などの製造に欠かせない麴の培養に用いられた地下室「麴室」が26群、約100室も発見され、寛永期(1624~1645年)頃から紀州藩によってこの地で麴が広く作られていたことが明らかになりました。 菌食とミネラル食品を扱う弊社。古くから麴作りが盛んだったこの地に本社を構えるに至ったのも、まさに「運命」と言えるでしょう。