菌の物語

第1巻
第6話「シロ」の環のなかで

秋の味覚を象徴するマツタケ。その気品ある香りと風味の良さは、実りの秋の食を、より彩りあるものにしてくれます。椎茸やしめじとならび日本のキノコの代表選手です。マツタケ狩りでもお馴染みですが、マツタケの生える場所は「シロ」と呼ばれ、マツタケの子実体(キノコ)が直径数メートルのリング状のコロニーを作って発生するのです。その円状の領域のことを「シロ」と呼ぶのです。その語源は「神の依る代」、「キノコの城」、「土の色が白くなる」等、諸説あります。不思議なリング状に広がっていくことから、ヨーロッパでは「妖精の輪」、「フェアリーリング」とも呼ばれています。キノコが神聖な力を持っていたことが伺えるようなネーミングです。

さてこのシロはどのように円状に生えるようになるのでしょうか?実はマツタケは、元気の良いアカマツの根に菌根を作ります。そして3~4年の間、マツタケはこのアカマツの根から栄養をもらって菌糸を発達させ、シロに沿って生えていくのです。こうしてリング状に生えるまでには、充分な準備期間を必要とするのです。

一方のアカマツにとっても、根にいるマツタケの存在は、水分やリンなどの無機栄養分の補給役として重要であり、さらにマツタケの菌根から出る抗生物質が、シロの内外の殺菌をしてくれており、自らの健康を維持するのに大変重要な役割を果たしてくれているのです。

最近では「菌活」という言葉が流行っているとも聞きますが、マツタケや椎茸を始めとするキノコ類は”菌活食材の王様”です。その芳醇なマツタケの香気成分は、「ケイ皮酸メチル」、「マツタケオール」等、約60種もあると言われ、その魅力的な香に注目されることが多いですが、食欲増進や、がん予防その他、代謝促進、便秘解消、疲労回復など、様々な効果が得られます。その効果がわかり始めたのはごく最近の話で、人間がマツタケを食べ始めるずっと前から、マツタケとアカマツは、日本の里山の中で、長い年月をかけて互いに“共生関係”を築いてきたのです。

植物同士の助け合いの象徴とも言える「シロ」の発生から、実はキノコと人間もその共生関係の環となって繋がっていることが伝わってきます。大きな生態系を意識することが少ない現代生活ですが、もともと生物に必要なものはすべて備わっており、お互いが必要なものを補い合って、協調のもとに環となって暮らしていることがわかります。