菌の物語

第9巻
第7話キノコを育てる「ハキリアリ」

他のアリには見られない特異な生態を持つ事で有名な「ハキリアリ」。ハキリアリとはその名の通り、葉っぱを切り取って巣に持ち帰るアリです。このアリは他のアリのように甘いものに集まったり虫を襲ったりすることはせず、列を成して様々な木に登り、そこにある葉を切り落として次々と巣へと運んでいきます。その姿は葉が独りで歩いているようにも見えます。葉を巣へ持ち運んだハキリアリたちは、この葉をエサにする訳ではなく、地下にある巣の広大なスペースに葉を運んで、その葉に特殊な菌を植え付け育てます。そして、自分たちで栽培したキノコを収穫して食べるのです。

大型のハキリアリは、頭の幅が5ミリもあり、小型のハキリアリの体長を上回るほど。ハキリアリが大型、中型、小型に分かれるのは、幼虫期にどれだけの量の食糧(キノコ)を与えられたかによるそうです。ハキリアリの巣にある「菌類栽培スペース=キノコ園」は、生育に適した温度と湿度が保たれ、アリ達はその環境を維持するために葉を運び続けるのです。

ハキリアリの巣は、多くの部屋がトンネルでつながっていて全体の大きさは乗用車1台分ほどにもなります。中央にあるラグビーボール大の何百もの部屋からなる「キノコ園」と、その周辺にある「ゴミ処理場」となる部屋で構成されています。

ひとつの巣には400~500万匹のアリが住んでおり、葉を細かく刻んで菌床をつくり、「キノコ園」でキノコを育てていきます。「ゴミ処理場」は、アリの死骸や使い古した菌床を廃棄する部屋となっています。廃棄された菌床には窒素などが多く含まれていて、それがやがて土に還り、森をより豊かにするのです。ハキリアリたちは、キノコを栽培し、それを利用する習性から「農業をするアリ」と呼ばれ、節足動物でこのような生態を見せるのは本種以外には殆ど見られない事でも注目されています。それだけでなく、ハキリアリは森を育む大切な役割も担っているのです。