菌の物語

第6巻
第7話インダストリアル・ミール

「二十世紀」という時代は、物事の変化のスピードが加速度を増して、短期間で非常に多くの事象が生じては消えていった時代と言われています。

そして、この二十世紀を支配した考え方が、「工業化」とそれを可能にした「規格化・単一化」です。パーツの形と大きさを統一し、作成手順をマニュアル化したことは、誰が作っても同じ性能と見た目を持つ製品を、安定して大量に製造することを可能にしました。

この思想によってできたのが工業製品であり、この言葉を聞いて多くの人が抱くイメージは、延々と流れるベルトコンベアー上の製品に、左右から人間が部品を取り付けていく光景でしょう。この「工業化」は、時代を貫く根底思想であり、人間と、人間に関わる全てのものに影響を及ぼしています。我々が日々口に運ぶ食べ物でさえも、その影響から免れることはできないのです。

私たちが毎日無意識に食べている様々な食品のほとんどは、既に「工業製品」化していると言えましょう。安全性や保存性を高め、味、見た目を良くするために、様々な化学薬品、添加物にまみれたクスリ漬けの食品もどきになっているのです。それらのニセモノ食品は、本来の食品に備わっている様々な栄養素や効能は失われています。私たちは、中身が空っぽどころか、人体とその精神に害悪さえもたらす危険な食べ物を日々食しているのです。そして、このような工業化思想による大量即成の影響を最も蒙っているのが発酵食品なのです。

発酵食品は、本来菌によるゆっくりとした発酵過程を踏まえるものであり、手間も時間もかかるものです。それ故に、現代のスピードと手軽さ重視の食品製造においては、真っ先に添加物によって本来の姿を跡形もなく消されてしまいました。

伝統的な手法に基づいて時間をかけて作られれば、発酵食品は人体にとって有害な化学薬品・添加物等の排泄を促し、有用成分を消化吸収するための有効な手立てとなります。弊社が「菌食」と呼び、展開しているシイタケ等の菌糸体を用いた発酵食品は、丁寧に時間をかけて作られたものです。

日本は元々、世界的にも最も豊富な発酵文化があり、それだけに、食の工業化により受ける影響は諸外国よりも甚大かもしれません。

歯止めの利かない工業化の波が、あらゆるものを規格化した末に待ち構えているものは、間違いなく人間自体の単一化であり、誰も彼もが同じことを良しとする、思考停止した社会でしょう。人間自体が画一化された「製品」と化すのです。生き物が、食べるものによって肉体を作り、維持していることを考えれば、来るべき「人間」の未来は想像に難くありません。

しかし、これほどまで隅々に化学添加物が普及浸透してしまっている現代社会で、加工食品を食べずに生活を送ることは実質的に不可能です。この現実に生きる以上、店頭に並ぶ食品を見て疑心暗鬼に陥るより、良質な発酵食品を積極的に取っていくことで、我々は本来あるべき姿の食事をとり戻し、「健全な人間」であろうとする努力を続けていくべきではないでしょうか。