菌の物語

第5巻
第2話ふぐの毒は発酵で消える?

石川県白山市で受け継がれている奇跡の逸品「ふぐの子糠漬け」。 石川県は日本で唯一、ふぐの卵巣のぬか漬けと粕漬けの製造・販売が許されているのです。ふぐといえば、美食家をうならせる高級魚のひとつ。しかし、ふぐの卵巣には「テトロドトキシン」という猛毒が含まれています。テトロドトキシンはふぐの体内でできるわけではなく、海の細菌によって作られ、食物連鎖を経て、ふぐの中の主に卵巣や肝臓に蓄えられるのです。

本来なら人の健康を損なうおそれがある部位として規制されていますが、「ふぐの子糠漬け」は、この卵巣を3年ほどかけて塩漬けと糠漬けにし、毒を抜いて食べるという白山市特有の郷土料理となっています。

先人がどうやってこの方法を見つけたかは定かではありませんが、発酵中に微生物が毒を分解すると考えられているようです。ただし、解毒のメカニズムが科学的に解明されていないため、伝統的な製法が現在でも頑なに守られています。海の細菌によって毒が作られもすれば、 その毒のかたまりが極上の珍味に変身するのも、微生物のおかげと言えましょう。様々な微生物が関係し合って、毒を消す作用と同時に旨味を作り出しているのです。