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2025.12.18

強さはどこから生まれるのか ―奇跡のリンゴの見えない世界―

「奇跡」と呼ばれるリンゴがあります。それは、青森の木村秋則さんが、無肥料・無農薬で育てたリンゴです。なぜ奇跡と呼ばれるかというと、無農薬で育てるのは実現不可能な果実と言われていることに理由があります。美味しいものが好きなのは虫も一緒です。夥しい数の害虫からリンゴの生育を守るためには、年に十数回の農薬を散布が必要で、生産者は自らもその農薬で体を痛めています。木村さんの奥さんもその一人でした。

 

農薬散布の度に体を壊し、苦しむ奥さんの姿を見て、そんな悲惨な状態からなんとか助けたい。そのためには、農薬を使わずしてリンゴの栽培ができないか。無謀とされた挑戦へ駆り立てたのは、奥さんへの一途な愛でした。

 

無農薬栽培の実現には膨大な労力と年月を要しました。研究、実験を繰り返し、あらゆる手を尽くしてもうまくいかない日々。しかし、着手から八年目、一つの重大な答えを得たことによって、木村さんの挑戦は成功へ導かれます。その答えとは、まさに人間の体と同じ、「菌の力によって生かされる」ということでした。

 

1984年夏。木村さんは山深い森の中で魔法のようなドングリの木と出会います。立派な枝ぶりに生き生きとした葉。害虫の被害が一切ない、生命力に溢れた木でした。なぜ農薬なしで生きられるのか。着目したのは、その木が育っている土壌でした。フワフワで柔らかい状態になるほど、土中細菌がはびこり、その木の根には多くのバクテリアが棲んでいたのです。

 

この出会いを元に、木村さんは無農薬のリンゴの栽培に成功するのですが、実はこの真実は人間の身体にとっても同じことが言えるのです。

 

「植物の根」というのは、人間でいうと「腸の絨毛」です。その根に、たくさんバクテリアがいるということは、人間の腸内の菌がしっかりしていて活性化している状態と同じことです。根の周りにバクテリアが多く棲みついている木は、逞しく生命力が高いので害虫も寄せ付けません。これが野生の逞しさであり、現代人が失いつつある力ではないでしょうか。害虫を恐れるのではなく、それに勝る力を持つと言うこと。我々が菌食を摂る意味もここにあるのです。

 

木村さんが答えと出会った1984年は、バイオテック創業の年。菌にまつわる不思議な巡り合わせを感じずにはいられません。